病院での臨終における手続きの流れ

病気やケガなどで入院中に亡くなると、病院では様々な処置を行ってくれます。

しかし、その多くは普段の生活では耳にしないことばかり。

また、各種手続きや葬儀の準備なども短時間のうちに行わなくてはなりません

特に初めて身内を亡くした人は、戸惑ってしまうことも多いでしょう。

ここでは病院で臨終を迎えてからの流れや手続きに関して、

必要な知識とともにわかりやすく解説していきます。

死亡が確認されたら

死亡の確認は、必ず医師によって行われます。

その後の手続きや流れは病院や遺族の希望により異なることもありますが、

概ね次のような手順で行われます。

一般的な臨終後の流れ
 

  1. お別れの時間
  2. 末期の水
  3. エンゼルケア(逝去時ケア、死後の処置)
  4. 霊安室へ移動
  5. 寝台車の手配
  6. 退院手続き
  7. 安置する場所への搬送

大切な家族が臨終を迎えれば、平常心を保つことは難しいものです。

しかし、そのまま病院にいられるのも僅かな時間しかなく、

その間に処理しなければならない事柄はたくさんあります。

病院であれば看護士などのスタッフが対応してくれますが、

確認や決断を求められる場面も少なくありません。

別項で述べますが、宗教上の要望がある場合は、病院側へ伝えておくといいですね。

慣れない事柄も多いので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

お別れの時間

医師の死亡確認が終わると、その場にいたスタッフが簡単に医療機器を片付け、

退出してくれます。

しばらくは家族だけの時間を過ごしましょう。

他人がいると感情を外に出せない人もいますが、

きちんと悲しみ、事実と向き合うことも遺族にとっては大切なことです。

これから通夜・葬儀と慌ただしく別れの時を送らなければなりませんから、

実は家族水入らずで過ごせる時間は貴重なのです。

…といっても、10~15分もすれば看護士が戻ってきます。

思い思いの言葉をかけ、故人の労をねぎらい、一緒に過ごすと良いでしょう。

末期の水

「末期の水」とは「死に水」とも言い、臨終を迎えたあと故人の口元を水で潤すことで、

弔いの最初の儀式にあたるものです。

お釈迦様が亡くなる間際に水を飲みたいと求め、

鬼神が持参した水を飲んで安らかにあの世へと旅立ったことが由来とされています。

また、あの世では飲食をしないとされていることから、

最後の飲み物として口に含ませるという考え方もあります。

このように、元来は危篤状態となってから亡くなる前に水を飲ませたものでしたが、

現在では死後に行うことが多く

臨終に間に合わなかった家族がいる場合は全員揃うのを待ってから行うほど

大切な儀式に位置付けられています。

なお、病院で行うことが多いですが、自宅などに引き取ってから行う場合もあります

また、浄土真宗では亡くなるとすぐに成仏でき、

あの世での苦難はないという教えから、末期の水は行いません。

病院などでは医師または看護士が次のように準備をしてくれるので、

宗教上の問題がなければお任せしましょう。

末期の水
 

  1. 新しい割り箸の先にガーゼをくくりつけます。
    脱脂綿、樒や菊の葉、羽などを用いることもあります。
  2. お椀などの器に水を入れ、それに浸します。
  3. まず上唇を左から右へ、次に下唇を左から右へとなぞります。
    血縁の濃い人から一人ずつ順に行いましょう。
    (順番の例:故人の配偶者→子→親→兄弟姉妹→子の配偶者→孫)
  4. 全員が終わったら、顔をきれいに清めます。
    おでこを左から右へ、鼻を上から下へ、顎を左から右へ拭いていきましょう。

 

故人に「お疲れさま」「ゆっくり休んでね」などと

声を掛けてあげながら行うといいですね。

エンゼルケア(逝去時ケア)

悲しいことですが、人の体は亡くなった瞬間から少しずつ腐敗が進んでいきます。

それをできるだけ遅らせ、

生前のきれいな姿のままお別れをするには適切な死後の処置が必要で、

近年では「エンゼルケア」と呼ばれています。

家族を亡くした悲しみは非常に大きなものですが、死後の変化はさらに追い打ちをかけ、

遺族の心に深い傷を残すこともあり得ます。

また、長い闘病生活で痩せてしまった場合や事件・事故による損傷が激しい場合などは、

元気な頃の姿に近づけたり、きれいに身支度を整えてもらったりすることで、

故人の尊厳を保つのと同時に遺族の心を和らげる役割もあるのです。

こういった理由の他に、エンゼルケアには遺体と接する遺族・葬儀社スタッフなどの

衛生上の安全を守るという目的もあり、

専門知識をもった看護士やプロの手で行うことが必要です。

そのため、昔は遺族が遺体を沐浴させる「湯灌(ゆかん)」を行っていましたが、

現在では希望者のみに行われ、業者に依頼するのが一般的となっています。

エンゼルケアの代金は病院により様々で、内容もそこの方針によって異なりますが、

多くは無料~数万円程度で、医療保険の対象とはなりません(保険適用外)。

また、湯灌を希望すると5万円前後かかることが多いようです。

 
それでは一般的なエンゼルケアの内容を見てみましょう。

大部屋に入院中だった場合は、個室に移動して行います。

所用時間は30分程度のことが多いようです。

エンゼルケアの内容
 

  1. 医療器具を外した部位・治療でできた傷の手当
  2. 身体の清拭 (せいしき)
    温タオルなどで体を拭きます。
    強くこすると皮膚表面を傷つけるため、押さえるように丁寧に拭きます。
    洗髪・足浴も行います。
  3. 皮膚の保湿
    皮膚が乾燥すると変色などが起こるため、清拭後に保湿ローションを塗布します。
  4. 鼻・口・耳への脱脂綿詰め
    最近は行わない所も増えています。
  5. 着替え
    従来は白の浴衣でしたが、最近は故人のお気に入りだった服を持参して、それを着せてもらうことも増えています。
    着物の場合は左前身頃、紐は縦結びにします。
  6. 死化粧 (しにげしょう)・エンゼルメイク
    マッサージをして顔の筋肉の硬直をほぐし、自然な表情に保ちます。
    メイクによって肌の乾燥・変色をカバーし、生前の血色の良い肌色を保ちます。

エンゼルケアはスタッフだけで行うこともありますが、

遺族も最後のお世話を手伝うことで納得感や満足感を得ることができ、

心の負担を軽くする効果があるともいわれます。

無理に立ち会うことはありませんが、着替えやお化粧を一緒に行うのも良いでしょう。

なお、男性はヒゲを剃りますが、

宗教や地域によっては遺体に刃物を当てることを好まない場合もありますので、

希望があれば伝えましょう。

女性の化粧はナチュラルメイクが基本です。

 
この他にも、エンゼルケアの一環として、

  • 冷却(クーリング)
  • 手を組む(固定する)、または体の横に置く
  • 目や口を閉じる(必要であれば固定する)

などを行いますが、遺体の状況によって多少異なります。

最後に遺体にはシーツを、顔には白い布を掛けて、エンゼルケアは終わりとなります。

霊安室への移動と手続き

エンゼルケアが終わると、病室から院内の霊安室に移動します。

病院の霊安室は2体までしか安置できないところが多く、

ほとんどは数時間以内に遺体を引き取るように求められます

この間に、遺族は

  • 遺体の安置場所の決定と準備
  • 搬送業者の手配
  • 退院手続き

などを行わなければなりません。

遺体の安置場所は自宅が最も多い(次項参照)ですが、

難しければ葬儀社などの設備が整っているところを借りる手配をします。

遺体を搬送するには寝台車が必要で、多くの病院には提携する業者がいますので、

そこにお願いして引き取るのが良いでしょう。

この場合でも、葬儀などを依頼するのは別の業者で問題ありません。

もちろん、すでに葬儀社が決まっている場合は、すぐに連絡して搬送してもらい、

決まっていない場合は早急に見積もりをとるなどの手配をしましょう。

葬儀社は、遺体を自宅に安置する際の「枕飾り」を準備する段階で必要ですから、

遺族で相談して決めていきましょう。

 
一方で、退院手続きも行います。

まず、病室の整理をして、日用品などの私物は持ち帰りましょう

同室の人がいる場合はお世話になった挨拶をしておきます。

また、入院費用を清算して支払うことになりますが、

エンゼルケアなどを含めまとまった金額を支払うことが多いようです。

でも、急いで病院に駆けつけた人は、持ち合わせがないこともありますよね。

このような場合は後日支払うことも可能ですので、

金額を確認して後日精算する旨を伝え、改めて病院へ来るようにしましょう。

ただし、病院によっては現金だけでなく、

クレジットカードやデビットカードが使える場合もありますので、

精算窓口で聞いてみるといいですね。

なお、故人の入院費用は負債となるので遺産相続人に支払い義務が生じます。

 
また、退院手続き時に

お世話になった医師や看護師に対してお礼をしたいと考える人も多いと思います。

モラルの関係上、

多くの病院で「心づけ」といった現金や物品の受け取りは禁止されていることが多く

ナースステーションなどにその旨を貼りだしているところも少なくありません。

それでも感謝を形として表したいという場合には、

断られるのを覚悟の上で、菓子折りをナースステーションに届けると良いでしょう。

その際、強く断られたら素直に引き下がります。

病院によっては、受け取った人に対して罰則があるケースもありますので、

くれぐれも無理強いしないようにしましょう。

菓子折りには切ったり皿に盛ったりする手間をかけずに食べられるものや、

個包装になっているものが適しています。

病院はスタッフの人数が多く24時間体制ですから、賞味期限が短めでも問題ありません。

ただし、生ものは衛生上やめた方が良いでしょう。

 
一方で受け取りを忘れてはならないものに、病院が発行する「死亡診断書」があります。

死亡診断書は行政上の手続きや火葬の際などに重要な書類です。

絶対に紛失しないように持ち帰りましょう

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

死亡届・火葬・埋葬許可証の書き方、時期や届け出先について

遺体の引き取り後の対応について

前述のように、病院の霊安室には数時間しか遺体を安置してもらえません。

病院の提携業者か自分たちで手配した葬儀社の寝台車で、

自宅など安置する場所へと遺体を引き取りましょう。

自宅に安置する場合は、病院で対応にあたる遺族とは別の誰かに、

遺体到着までに安置する部屋の片づけや布団の準備などをお願いしておきましょう。

 
また、仏式で葬儀を行う場合には僧侶にもお願いしなければなりません。

特に菩提寺がある場合は早急に一報を入れて寺や住職の都合を確認し、

葬儀社にも相談の上、葬儀の日時や規模・スタイルを決めていきましょう。

遺体安置後の通夜までの流れや葬儀スタイルについての詳細は、

こちらの記事で紹介しています。
仏式の通夜の流れとは?時期や準備、会食について 葬儀の形式、費用は?一般葬や家族葬、密葬など

宗教上気を付けたいこと

日本ではほとんどの人が無意識のうちに仏教的な考えのもとで生活しています。

そして、仏教に基づいた行為が常識として扱われていることも多いのが現状です。

このため、宗教が違うと不都合な事態に遭遇することもあります

特に死生観は宗教を強く反映するので、

臨終の場面ではしっかりと宗教・宗派を伝えた方が良いでしょう。

 
例えば、浴衣を着せる場合は左前にしますが、

死装束(経帷子)として用意されたものの場合、仏を表す梵字が入っていることがあり、

他の宗教の人には適しません。

また、キリスト教には死装束を着せるという概念自体がありません

臨終だけでなく危篤のときから司祭・牧師が立ち会うことが多く、

末期の水を取らない代わりに祈りが捧げられます。

神道の場合も白の浴衣を着せることがありますが、

梵字の入ったものは仏教用なので注意してください。

なお、仏教の中でも浄土真宗では“死後速やかに極楽浄土で仏となる”としているので、

あの世への旅立ちに備える末期の水や死装束はありません

また、宗教だけでなく地域による風習の違いもあります。

死者に刃物をあてないようにする場合もあるので、

エンゼルケア時の男性の髭剃りなどは行わないようにお願いすると良いでしょう。

同様に、無宗教にこだわりたい場合も

伝えておかないと仏教的な処置を施されてしまうことがあるので、注意しましょう。

なお、仏教以外の宗教における葬儀の流れについては、こちらをご覧ください。
キリスト教の通夜・葬儀の流れとは?時期とやることまとめ

神式の通夜・葬儀の流れとは?時期とやることまとめ

臓器提供・献体・病理解剖について

臓器の移植以外に回復する見込みの薄い人に対して、

脳死あるいは心停止した人から臓器を取り出して移植することを

臓器提供」といいます。

臓器提供には本人の意思または家族の承諾が必要で、

万が一の場合でも本人の意思を確認できるように、

  • インターネットによる意志登録
  • 健康保険証の意思表示欄の記入
  • 運転免許証の意思表示欄の記入
  • ドナーカード(臓器提供意思表示カード)の記入

を予め利用しておくことが必要です。

臓器提供を行うことが決まると、医学的に最も適した患者が公平に選ばれ、

移植コーディネーターのもと、

遺族・病院が協力し合い移植に向けての話し合いや準備が行われます。

なお、臓器提供する側に費用の負担は一切ありません。

臓器提供する場合、摘出に2~6時間を要する以外は、

一般の臨終を迎えた人と同じ流れで手続きを行うことができます

遺体の傷口はきれいに縫合され、

亡くなったときとほとんど変わらない状態で戻ってきますから、

その後の葬儀なども同じように行うことができます

詳しくは(公社)日本臓器移植ネットワークをご覧ください。

 
一方、遺体を大学などの解剖実習や研究に提供することを「献体」といいます。

臓器提供とは異なり、献体するには、

  • 生前に大学や日本篤志献体協会へ登録しておくこと
  • 配偶者、親、子、兄弟姉妹などの2親等以内の家族の同意を得ていること

の条件が満たされなければなりません。

遺体は献体として用いられたあと、

火葬されて遺族の元に戻ってきますが、1~3年かかることが多いようです。

このため、献体とする場合の葬儀は、

  1. 提供前に葬儀を行う
  2. 提供後、遺体なしで葬儀を行う
  3. 数年後に返還されてから葬儀を行う

のいずれかとなりますが、死亡後すぐに遺体の防腐処置などが必要であるため、

提供後に遺体なしの葬儀をあげるケースが多いようです。

なお、遺体の搬送や火葬の費用は大学などが負担してくれます。

 
また、今後の医学の発展などを目的として、

病院側が「病理解剖」を申し出る場合があります。

病理解剖には遺族の了解が必要ですので、解剖を断ることも可能です。

ただし、臓器提供や献体と違って故人の遺志が不明であることが多いため、

悩む遺族も多く見られます。

故人をよく知る人が判断すると良いでしょう。

病理解剖をした場合、遺体は納棺後に遺族に引き渡されますので、

臓器提供の場合と同じように葬儀を行いましょう。

 
臓器提供や献体・病理解剖については、故人の遺志を最優先するべきだと思いますが、

日本では世間的な認知度や理解が低く、

場合によっては周囲の人に受け入れてもらえないこともあります

間に立つ遺族は辛い立場になることもあり、

難しい局面を迎えることもあるかもしれません。

しかし、話し合いの場を設けるなど理解が得られるよう努力することは、

故人の尊い遺志と行為に対する礼儀のようにも思えます。

短い時間に決断を迫られることになりますが、

家族としても悔いのないようにしたいですね。