最後の別れの場となる「お葬式」は、立派な祭壇をしつらえ、
故人を偲ぶたくさんの人で見送るのが一般的でしたが、
近年では規模を縮小し、シンプルな葬儀を行う人が急増しています。
このような葬儀の中で、究極ともいえるのが「直葬」と呼ばれるスタイルです。
しかし、事前の準備を怠ると、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。
ここでは「直葬」の詳細とメリット・デメリットを中心に、
小規模でありながら一般葬に近い「家族葬」についてお伝えします。
火葬のみおこなう葬式「直葬」とは?
一般的なお葬式のように通夜や葬儀・告別式を行わず、
火葬だけを行うことを『直葬(または火葬式)』と言います。
参列するのは家族・親戚やごく親しい友人のみで、10名弱であることがほとんどです。
最近の葬儀は縮小傾向にありますが、それでも直葬を行う人は約16%と少数派なので、
認知度や理解度はまだまだ低いと言えるでしょう。
また、準備するものが少ないので簡単に考える人もいますが、
決めなければならないことも意外とあるので注意が必要です。
直葬にする理由と一般葬との違い
直葬を選ぶ人のほとんどが、その理由として
- 故人の遺志
- 参列者が少ない
- 経済的な負担が少ない
をあげています。
中でも「参列者が少ない」ために小規模で済み、
接待費や香典返しなども不要なので「経済的な負担が少ない」という点は、
一般的な葬儀との大きな違いです。
ただし、後述しますが、このためにトラブルに発展することもあり、
直葬にはメリットだけでなくデメリットもあることを理解しておきましょう。
必要な準備とは?
直葬とはいえ慣れない準備は大変ですし、
遺体の搬送や大量のドライアイスの手配など個人では難しいこともあるので、
やはり葬儀社に依頼するのが安心で確実です。
ただし、すべての葬儀社が直葬を扱っているわけではありません。
中には儲けの少ない直葬に嫌な顔をする業者もいます。
また、セット価格の内容がわかりにくいところもあり、
知らずにオプションを利用してしまい、多額の追加料金を支払ったケースもあります。
まずは、インターネットなどで広く情報を集めるようにしましょう。
あとは担当者の指示に従って下記のように詳細を詰めていきましょう。
- 遺体の安置場所の決定
法律上、死後24時間を経過しないと火葬できないため、遺体を引き取った後、どこに安置するかを決めましょう。
火葬場が混み合う都市部では、3日ほど安置することが多いです。
できれば自宅ではなく葬儀社などの安置室を手配してもらいましょう。 - 棺、枕飾り、遺影、骨壺、花など用具の手配
様々なグレード・価格があるので、必要なものを選びましょう。
お葬式ではないので遺影は無くても問題ありませんが、飾ることもできます。 - 火葬場の手配
火葬する場所と日時を決めます。 - 僧侶を招いて読経するか(自宅あるいは火葬場)
直葬には宗教的な意味はないので、供養をしたい場合は僧侶に読経してもらいましょう。
菩提寺があれば直葬でも読経してもらえるか尋ね、難しければ別途手配してもらいます。
火葬式でのお布施は3~5万円が相場です。
直葬の流れ
それでは一般的な直葬の流れとして、病院で臨終を迎えた場合の例を見ていきましょう。
- 業者に依頼し、病院から安置場所(自宅・葬儀社など)へ遺体を搬送する。
- 安置したら腐敗防止のドライアイスを施し、枕飾りなどをしつらえる。
- 葬儀社との打ち合わせ(前項参照)
- 市区町村役場に死亡届を提出し、火葬許可証を交付してもらう。
- 火葬当日、火葬場へ遺体を搬送する。
- 火葬・骨上げ
- 後日(四十九日、一周忌など)、納骨する(お墓がある場合)。
なお、各項の詳細は、こちらの記事で詳しく触れていますので、ご覧ください。
●臨終から安置までの流れについて
病院での臨終における手続きの流れ
●死亡届・火葬許可証などの必要な手続き
死亡後の手続きに必要なことは?やることまとめ
●火葬について
火葬の流れと骨上げの作法とは?時間や順番・箸の使い方
また、必要な人には訃報を伝えます。
火葬に立ち会ってもらいたい人以外には、
「身内で行うので、弔問はご遠慮下さいますようお願い致します」と申し添えましょう。
直葬が終わったあとで、無事に葬儀が済んだ報告と併せて連絡することもあります。
火葬のみ行う場合のメリット
火葬が主体となる直葬のメリットは主に次の3つでしょう。
- 費用が格段に抑えられる
- 精神的・肉体的労力が軽減される
- 短時間で終わる
①については、葬儀本体費用の平均は約121万円、
飲食費と寺院費用を合わせると196万円かかると言われていますが、
直葬では約20~30万円と本体費用の4分の1、
総額では9分の1程度に抑えることができます(2017年日本消費者協会アンケート調査)。
規模も参列者も抑えられる直葬は、費用面の負担がとても軽いことがわかりますね。
また、②は通夜・告別式を行わないため準備・接待に追われることがなく、
香典も集まらないので香典返しの手配が不要であることから、
遺族の心身の負担が軽減できるということです。
さらに直葬にかかる時間は最短なら火葬前の数十分と、火葬の約2時間なので、
数日間にわたる一般的な葬儀に比べれば非常に短い時間ですみます。
忙しい人や体力のない人にとっては時間的な負担も軽減できるといえるでしょう。
ただし、これらは主に故人や喪主側のメリットです。
後述するように、他の人にとっては必ずしもそうでないことを理解しておきましょう。
葬式を行わないのは問題か?デメリットは?
日本には「墓地、埋葬等に関する法律」がありますが、
ここで定めているのは「死後24時間以上経過した後に埋葬または火葬する」ことです。
つまり、葬儀をする・しないは自由で、個々の宗教や死生観に任されているのです。
…そうはいっても、葬儀を行う方が一般的とされる現代では、
社会通念上、「直葬」を受け入れられない人が少なくないのも事実です。
直葬のデメリット
直葬は従来の一般的な葬儀と大きく異なるために、次のようなデメリットがあります。
- 直葬への理解が得られにくい
- しばらくの間、自宅へ弔問客が来る可能性がある
- 遺体の安置場所の確保が必要
- 葬祭費が支払われないことがある
- 菩提寺に納骨できないことがある
直葬を行う理由は、「故人の遺志」と「経済的な事情」が大半を占めます。
このため、家族は納得できたとしても、
親戚や知人の理解が得難いなどのトラブルも少なくありません。
なぜなら、直葬は通夜や葬儀・告別式を行わないため、
宗教的な意味合いが少なく、弔いが不十分と感じることがあるからです。
それと同時に、これらは故人と会う最後の場でもあるため、
別れの機会を持てなかった(もらえなかった)と感じる人もいます。
一般的な葬儀をしなかったことへの苦情が遺族の耳に入ることもあるでしょう。
弔問の機会がないために、後日、自宅を訪れる人もおり、
遺族がその都度接待しなければならないという事態も起こり得ます。
また、通夜などを行う一般の葬儀ではその会場に遺体を安置しますが、
直葬の場合、平均3日程どこかに遺体を安置しなければなりません。
自宅を考える人もいると思いますが、
高温多湿の日本ではドライアイスを使っても腐敗しないように保つのは難しいので、
葬儀社などの安置スペースを借りた方がよいこともあります。
なお、国民健康保険の加入者は「葬祭費」という給付金が受けられますが、
直葬はお葬式に該当しないとして給付金が受けられない市区町村もあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
葬儀における給付金(葬祭費、埋葬料)の申請について
しかし、支給額は自治体によりますが1万~7万円程度のことが多く、
支給されなかったとしても葬儀費用の面からみれば直葬の方が安く済むのは事実です。
ただし、寺院墓地にお墓がある場合、
宗教的儀式を伴わない直葬では納骨を断られることがあるので注意が必要です。
トラブルを防ぐには?
直葬と正しく向き合い、しかるべき対応を取れば避けられるトラブルもあります。
前述のデメリットを考慮して、次のようにきちんと対応しておくことも重要です。
- 直葬で行う理由を伝える(故人の遺志など)
- 直葬でもできる供養の場・お別れの時間を設ける
- 菩提寺がある場合は事前に相談する
故人の遺志で直葬にするなら、
直葬に対する理解は得られなくても納得してもらえる可能性は非常に高いです。
できれば生前に一筆もらっておくなど、本人の意思を明示しておくと良いでしょう。
遺言状でなくても、親族からのクレームがあった場合に大きな後ろ盾となります。
無い場合は「故人の遺志により」と前置きして直葬で行うことを告げれば、
大きなトラブルに発展しにくくなるでしょう。
また、直葬だと全く供養ができないわけではありません。
不安や苦情があるようなら、直葬でもできる供養を行うことをおすすめします。
火葬炉の前に小さな祭壇を設け、葬儀社に依頼して僧侶を招き、読経してもらうのです。
焼香をし、きちんとお別れの時間をとることで、
供養していないという思いが払拭されるのではないでしょうか。
事情を話せば直葬でも菩提寺の僧侶に読経してもらうことができるかもしれません。
ただし、火葬場は利用可能な時間が限られているため、
供養の時間を長くとりたいのなら安置しているところで行う方が良いでしょう。
なお、寺院墓地に納骨するのであれば、
直葬の決断をする前に必ず菩提寺に相談しておきましょう。
少し小規模な家族葬という選択肢も
規模は小さくしたいけれど、もう少し葬儀らしくしたい…という場合、
『家族葬』という選択肢もあります。
家族葬とは、家族や親しい友人を中心に行い、
会社や近所など関係者の儀礼的な参列をお断りして行う葬儀の形式です。
参列者を限定する点は直葬と同じですが、通夜、葬儀・告別式を行って供養をし、
ゆっくりと別れの時間を過ごせるのが特徴です。
費用は50万~65万円が相場と言われています。
親しい付き合いの人たちだけで行うので、会食や香典・香典返しなどを省略するなど
自分たちのイメージに近い葬儀にすることもできます。
もう少し簡略化したければ、家族葬の通夜を省略した『一日葬』もあるので、
遺族や参列者が時間をとれない場合などは、こちらを選択しても良いでしょう。
なお、葬儀形式についてはこちらの記事をご参照ください。
